相続での遺産分割協議とは?
今回は遺産分割協議について、遺産分割協議とはどのようなものか、遺産分割協議のトラブル、遺産分割協議を弁護士に依頼するメリットについてお話いたします。
1.遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、法定相続人が全員で亡くなった方(被相続人)の財産について、分割方法や取得割合を話し合って決める手続きで、話し合った内容が書面になったものを遺産分割協議書と言います。
遺産分割協議では、被相続人の財産を、具体的に、誰が、何をどれくらい取得するかを細かく決めていきます。
例えば、自宅の不動産を誰が取得するのか、預貯金はどのように分けるのかなどを相続人全員が協議して決めることになります。
協議が整えば、協議内容を書面にして、不動産であれば相続登記、預貯金であれば解約手続きなどに進んでいきます。
協議書自体は、専門家である弁護士や司法書士などでなくても作成は可能ですが、紛争防止ために専門家にご依頼いただくかご相談いただいたほうが良いです。
2.遺産分割協議でのトラブル事例
遺産分割協議で想定されるトラブルとして、
① 相続人に関するトラブル
② 相続分に関するトラブル
③ 不動産に関するトラブル
④ 遺言書との関係に関するトラブル
⑤ 協議成立後のトラブル
が挙げられます。
2-1.① 相続人に関するトラブル
A 相続人間で不仲
相続人に関するトラブルとしてまず挙げられるのは、相続人間が不仲であり、そもそも協議ができないという場合です。
親御さんの介護などを巡って争いになり、絶縁したというケースも多く、相続人の一人が他の相続人と連絡を取ろうとしても連絡を拒否されたというものです。
この場合、弁護士が仲に入ることで他の相続人が冷静になったり、お互い弁護士を依頼したりするなどして当事者同士よりもスムーズに進んだということもありました。
B 知らない相続人
次に、自分たちの知らない相続人がいたという場合も有ります。
多いのは、ご両親の一方が再婚であり、前配偶者との間にもお子さんがいたという場合です。
前配偶者との間のお子さんも相続人となりますのでその方と協議をする必要があります。
他にも、兄弟間での相続の場合に、幼少のころに養子になって別の家に移ったということも有ります。
お互い疎遠と言うことも有り、協議がうまくまとまらないというケースも少なくありません。
C 意思能力のない相続人
認知症などの理由で意思能力がない相続人がいるという場合も有ります。
意思能力のない方の法律行為は無効となりますので、協議自体が無効になります。
そこで、認知症などの理由で意思能力の有無に疑いがある方がいらっしゃる場合は、主治医に相談するなど慎重に対応することになります。
2-2.② 相続分に関するトラブル
A 多額の生前贈与
一部の相続人へ多額の生前贈与が行われている可能性がある場合です。
受け取った相続人が生前贈与を認め、受け取った金額に争いがなければ生前贈与を考慮して遺産分割協議をすればよいのですが、生前贈与自体を認めない場合や贈与自体は認めるが受け取った金額に争いがある場合に、協議が進まないということもあり得ます。
B 寄与分の主張
また、逆に被相続人の事業を手伝ったり介護を献身的に行ったりしたという理由で寄与分を主張し、その評価に争いがある場合です。
多くは行為そのものを争うというよりも、金額の評価について争うことが多いです。
寄与分を主張する側はより高く評価されたいと考えますし、主張される側は低く評価しがちです。
ある程度評価方法があるのですが、個別具体的に判断せざるを得ない以上、簡単に合意できるものではありません。
2-3.③ 不動産に関するトラブル
A 不動産の評価
不動産に関するトラブルで一番多いのは不動産の評価額です。
不動産を売却して分けるという合意ができれば評価でトラブルになることは有りません。
一方、相続人の一人が不動産を取得する場合には、不動産の評価額をどうするかでトラブルになることが多いです。
取得する側は出来るだけ低く評価したい一方で代償金を取得する側は出来るだけ高く評価したいと考えます。
そして、不動産の価格は一義的に決まるものでもなく、様々な要素を加味して算出されます。
B 代償金が支払えない
他に、意外と多くあるトラブルとして、被相続人と同居している相続人が取得を希望するものの、代償金が払えず、引越しすることも難しいという事例があります。
多くの方が被相続人の介護のために同居していたものであり、相続人間で協議が進まないという事例です。
2-4.④ 遺言書との関係でのトラブル
A 遺言書と異なる内容の協議
遺産分割協議が成立した後、遺言書が発見されたというトラブルです。
遺言書がある場合には、原則遺言書が遺産分割協議よりも優先されます。
また、当初は遺言書と違う内容で合意することになっていたものの、合意成立後に、やはり遺言通りにすべきと主張する相続人が現れるということも有ります。
B 遺言書の有効性に関する争い
また、遺言書の有効性に争いがあり、遺言書に従うか遺産分割協議をするか争いになるというケースも有ります。
遺言書のほうが有利なる相続人や受遺者としては遺言書は有効であり、遺産分割協議をする必要はないと考えるでしょうし、遺言書のほうが不利になる相続人としては遺言書は無効であり、遺産分割協議をすべきと考えます。
より有効となる証拠があれば遺言書に近い協議内容になるでしょうし、より無効となる証拠があれば法定相続分に基づく協議内容になる傾向があります。
2-5.⑤ 協議成立後のトラブル
A 詐欺または錯誤による取り消しの主張
騙されて遺産分割協議に合意してしまったという場合があります。
例えば、遺産はほとんどないと虚偽を教えられて同意してしまった場合です。
反対に、きちんと説明し、納得の上で合意したにもかかわらず、後日、あの協議は無効だ、詐欺を理由に取り消すと主張されるというトラブルも有ります。
B 新たな相続人の発見
協議が成立した後、相続人が新たに発見されたという場合もあります。
幼少のころに養子に出た相続人が当事者だけでなく金融機関なども見落としたというケースもごく稀にあります。
遺産分割協議は相続人全員で協議をしなければ有効になりません。
従いまして、お一人でも欠けた遺産分割協議は無効です。
この場合、最初から遺産分割協議はやり直しになります。
3.遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット
3-1.不利益を回避できる
A 協議の内容が不利か否か見極められる
例えば、他の相続人から、遺産分割協議書にとにかく押印してほしいと言われるケースは少なくありません。
兄弟姉妹のすることだからと信用して押印してしまい、結果として遺産をほとんど受け取れなかったと後悔する方もいらっしゃいます。
弁護士にご依頼いただくことで、弁護士が内容を吟味し、あなたにとって不利益な内容ではないかを確認いたします。
一見すると不利益には見えないようでも、長期的に見た場合には不利益を被るというケースも隠されてします。
このような不利益を回避することが可能です。
B 遺留分を見落とさない
生前贈与を受けた相続人から、生前贈与のことを一切教えられず、死亡時の財産はほとんどないと言ってわずかな遺産を公平に分けたが、10年以上たった後に、巨額の生前贈与があったことがわかったというケースもあります。
ところが、10年以上たってしまうと、遺留分の侵害請求をするには時効という問題が発生します。
仮に10年以内に遺留分が侵害されていたことが分かったとしても、銀行側から既に取引履歴の保存期間外なので、お渡しできないと言われてしまい証拠を集めることができないという事態に陥ることも有ります。
すぐに遺留分の侵害が発覚しても、侵害した側が請求に応じず、時効を迎えるという事態も起こりえます。
弁護士にご依頼いただくと、疑問が生じた場合に、財産調査を行い、その際に生前贈与が行われていたことが発覚することが多々あります。
また、素早い通知を行うことで時効により遺留分侵害請求が消滅するという事態を回避することができます。
C 被相続人に債務があった場合の対応ができる
遺産分割協議をしている中で、被相続人に債務も有ったことが発覚することも有ります。
少額であれば相続財産で何とかなるケースも有りますが、事業用の借り入れなど多額の債務が含まれているケースも有ります。
事業用の借り入れの場合、事業を引き継いだ相続人が債務も全て引き受けるという協議をすることがあります。
ところが、事業を引き継いだ相続人が自己破産をし、債務が支払えなくなったという事態も考えられます。
では、債務を引き継いていない相続人は被相続人の債務を支払う義務があるのでしょうか。
答えは、支払う義務があります。
このように相続財産と相続債務は扱いが異なります。
弁護士であれば相続債務が多くある場合に、どのように対処すれば熟知していますので、不測の事態に陥ることはありません。
D 遺言がある場合の対応もできる
遺言がある場合、遺産分割協議との関係では複雑なものになります。
遺言が全ての財産について記載されている場合と一部の財産についてのみ記載されている場合では取り扱い方も異なります。
遺言が全ての財産について記載されている場合ですと、原則遺言の内容が優先され、遺言に抵触する遺産分割協議は無効になるリスクがあります。
にもかかわらず、全員が合意しているのだからと安易に協議を交わして、後になって、遺言の内容通りにすべきと主張する相続人が現れるという事態に陥ることも十分あります。
弁護士にご依頼いただくと、相続人や受遺者全員が遺言とは異なる協議をすることに同意した旨を加えて、後になって遺言の内容にすべきだという主張を封じることができます。
一方、遺言には一部の財産についてのみ記載されている場合、残りの遺産の取り扱いがわからないという事態もあり得ます。
弁護士であれば、遺言に一部の財産についてのみ記載されている場合の、残りの遺産の取り扱いについて熟知していますので、スムーズに協議を進めることができます。
E 特別受益や使い込みの対応ができる
相続財産調査をしている中で、特別受益の存在や相続人による相続財産の使い込みが発覚するケースがあります。
弁護士が代わりに特別受益を受けた相続人や相続財産を使い込んだ相続人に対して、特別受益の主張をしたり、使い込みに対する追及をすることができます。
そして、ご本人が特別受益や使い込みを認めない場合には、調停や訴訟により、対応することができます。
3-2.手続きをすべて弁護士に任せられる
A 相続財産の調査
遺産分割協議をしようとしても、被相続人の財産として何があるかわからないというケースも多々あります。
金融機関への照会にしても市役所への名寄帳の照会にしても平日しか金融機関や市役所は対応してくれません。
その手続きを弁護士が代わりに行います。
また、照会の為の必要な書類も弁護士が熟知していますので、スムーズに照会手続などが可能です。
B 他の相続人との交渉を一任できる
普段から仲の良い相続人との話し合いならいいのですが、疎遠であったり、不仲の相続人との協議は気が重いですよね。
弁護士がわかりに協議をすることで精神的な負担を和らげることができます。
多くの方が精神的な負担を理由に弁護士にご依頼されます。
C 不動産の評価や分割方法を任せられる
不動産の評価というのは一律に決まるものではありません。
固定資産税評価、路線価、公示価格、実勢価格、基準価格などいろいろな評価方法があります。
相続人同士で不動産の価格を協議して決定することは自由です。
不動産を取得する相続人からすると、出来るだけ低い評価にしたいと考えます。
一方、不動産を取得しない相続人からするとできるだけ高く評価をしたいと考えます。
その結果、不動産の価格が決まらないという事態も十分ありますし、一方的に不動産の評価が決められてしまい、それが正当か否かを判断することなく合意してしまったという事態に陥ることも有ります。
弁護士であれば、遺産分割協議の場合にどれくらいの評価が正しいか熟知しており、また、知り合いに不動産業者がいることも多いので、不動産業者に査定を依頼するなどして不利な合意をすることを避けることができます。
また、不動産が複数ある場合にも不利な分け方を提案されることを避けることもできます。
D 協議が整わない場合にも手続が進められる
遺産分割協議というのは相続人全員が合意して初めて成立します。
逆に言うと、一人でも反対する相続人がいる場合には協議が成立しません。全員の合意がそろわない限り遺産を受け取る手続きを進めることができません。
遺産分割協議が成立しない場合、次の手続きは、家庭裁判所で行う遺産分割調停となります。
ただ、遺産分割調停を申し立てるにはどの裁判所か、申立書やその資料はどうするかなどかなり煩わしい手続きがたくさんあります。
弁護士はその煩わしい手続きを代わりに行うことができますし、忙しいあなたに代わり裁判所に出席することができます。
3-3.協議が無効になるリスクを回避
A 相続人の調査
遺産分割協議は、相続人全員で行います。
従いまして、相続人が一人でも欠けた場合には遺産分割協議は無効になります。
反対に、相続人だと思っていたら相続人ではなかった方が参加していた場合にも無効になるという事態もあり得ます。
弁護士にご依頼いただけますと、まずは相続人の確定調査から始めます。
中には、戸籍には記載がないが相続人がと主張する方もおり、その場合の対応もいたします。
B 行方不明者の対応ができる
先ほどもお伝えいたしました通り、遺産分割協議は相続人全員で行います。
ところが、行方不明で誰も連絡が取れないという場合も中にはあります。
相続人が一人でも欠けた場合には遺産分割協議を進めることは出来ません。
弁護士にご依頼いただいた場合、不在者財産管理人選任申立などをすることで対応することが可能です。
C 認知症の相続人や未成年の相続人への対応が可能
認知症などの理由で意思能力がない方の場合、遺産分割協議を進めても無効になります。
そこで、後見申し立てを行うことで協議が無効になることや手続きが進まないという事態を回避できます。
未成年の場合、法定代理人(たいていはご両親)の合意が必要です。
ただ、その法定代理人の一人が相続人であるというケースが少なくありません。
法定代理人が相続人でもある場合、未成年者と法定代理人との間で利益相反します。
にもかかわらず、遺産分割協議を進めてしまうと、法定代理人としての行為が無権代理行為になるなど不安定なものになってしまします。
弁護士であれば、素早く特別代理人の選任申立を行うなどをして対応できます。
D 手続きとして有効な協議書を作成できる
相続人全員が遺産分割協議書に合意したとしても、その合意書では不動産の名義変更や金融機関の手続きができないという事態も起こりえます。
弁護士であれば、手続きとしても有効な協議書を作成することができます。
3-4.協議成立後も任せられる
A 具体的な財産の取得手続
遺産分割協議書に署名捺印しても、それだけでは不動産の名義変更や金融機関の解約はできません。
具体的に不動産の名義変更や金融機関の解約などの手続きを行う必要があります。
弁護士にご依頼いただけましたら、不動産の名義変更であれば司法書士の紹介、金融機関であれば解約に必要な書類の準備、解約手続きなどを代わりに行うことができます。
B 協議成立後の紛争も対応
遺産分割協議が成立した後、協議書の内容について争われるという事例があります。
例えば、相続人の一人から遺産はほどんどないと説明されたことを鵜呑みにしてしまい合意したが、後になって多額の遺産があったことを知った場合に、遺産分割協議は無効だとして争う事例があります。
他にも、相続人の一人が認知症だったから無効だという主張をするケースも有ります。
このような場合に、どのように対応すればいいかを弁護士に任せることができます。
4.まとめ
以上のように、当事者だけで進めた場合に様々なトラブルになりやすいこと、弁護士にご依頼いただいた場合には、不利益を回避、手続きを一任、協議が無効になるリスクを回避、協議成立後も任せられることから、ぜひ弁護士にご依頼ください。
まずは、お気軽にご相談ください。