【用語解説】 価額弁償
価額弁償とは、相続において特定の財産を相続人の一人が単独で取得する際に、他の相続人の権利を保護するために、その相続人に対して金銭で補償する制度のことを指します。
特に遺留分侵害額請求に関する場面や、遺産分割の際に特定の財産を分けにくい場合に活用される仕組みであり、相続人間の公平性を保ちながらも、財産の適切な承継を実現する目的があります。
例えば、相続財産の中に不動産や事業用の資産などが含まれている場合、これらをそのままの形で分割することは現実的に難しいことがあります。
不動産を相続人全員で共有する方法もありますが、管理や利用の問題が生じるため、特定の相続人が単独で取得し、その代わりに他の相続人へ金銭で補償する価額弁償が有効となります。
価額弁償は、特に遺留分侵害額請求において重要な役割を果たします。
2020年の改正により、遺留分の補償は基本的に金銭で行うことが原則となりました。
これにより、不動産や株式などの財産が分割しづらい場合でも、価額弁償によって円滑に相続手続きを進めることができるようになりました。
例えば、親が遺言で全財産を特定の子に譲ると記載していた場合でも、他の子が遺留分を請求すれば、その相当額を金銭で支払うことで解決できる仕組みとなっています。
また、遺産分割協議においても価額弁償は有効な手段となります。
遺産分割には「現物分割」「換価分割」「代償分割」などの方法がありますが、特定の相続人が財産を取得する代わりに他の相続人に金銭を支払う代償分割の一形態として価額弁償が用いられます。
この方法により、相続財産を適切に承継しつつ、相続人間の公平を確保することが可能となります。
価額弁償を行う際には、対象となる財産の適正な評価が必要となります。
不動産であれば、不動産鑑定士による査定や固定資産税評価額、市場価格を基に算定されることが一般的です。
株式の場合は、市場価格や企業の純資産価値などを考慮して価値を決定します。
この評価が適切でなければ、後々のトラブルの原因となるため、専門家の意見を参考にしながら慎重に進めることが求められます。
価額弁償には一定の資金力が必要であり、相続人がその支払いを負担できるかどうかが重要なポイントとなります。
特定の相続人が不動産や事業を単独で取得する場合、その相続人が他の相続人に支払う金銭をすぐに準備できないこともあります。
そのため、金融機関からの融資を受けたり、場合によっては他の相続人と分割払いの合意をすることもあります。
もし支払いが困難な場合、遺産の一部を売却して資金を確保する換価分割の方法を検討することもあります。
価額弁償は、相続財産の分配を円滑に進めるために重要な役割を果たしますが、適用には慎重な検討が必要です。
特に、他の相続人が納得できる形で補償額を決定しないと、不満や争いの原因となる可能性があります。
そのため、遺産分割協議の際には、公正な評価を行い、適切な価額弁償を実施することが求められます。
場合によっては、専門家の助言を受けながら、相続人全員が納得できる形での解決を目指すことが望ましいといえます。