【用語解説】 相続財産管理人
遺産相続における「相続財産管理人」とは、被相続人が亡くなった際に相続人が存在しない、あるいは相続人がいても全員が相続放棄をした場合などに、残された相続財産を適切に管理し清算するために家庭裁判所によって選任される第三者の管理人を指します。
相続は通常、被相続人の財産上の権利や義務が相続人に包括的に承継されることで完結しますが、相続人がいない場合や放棄が重なった場合には財産を引き継ぐ主体が存在せず、被相続人名義の財産が管理されないまま放置されることになります。
そのままでは不動産の維持管理が行われず近隣に迷惑が及ぶ、預貯金や有価証券が滞留して経済的損失が生じる、あるいは被相続人に対する債権者が債権回収を行えないなど、社会的にも多くの支障を生む可能性があります。
このような事態を防ぐために、家庭裁判所は利害関係人や検察官の申立てに基づき、相続財産の保全と清算を担う相続財産管理人を選任し、財産が適正に処理される仕組みを整えています。
相続財産管理人に選任されるのは、通常は弁護士など法律や財産管理に精通した専門家であり、選任後は裁判所の監督のもとで相続財産の把握・管理・換価・清算といった一連の業務を遂行します。
具体的には、まず被相続人の財産や負債の内容を調査し、財産目録を作成して現状を明確にします。
続いて、相続人捜索のための公告を行い、一定期間内に相続人が名乗り出る機会を保障します。
この公告期間は通常6か月程度とされ、期間内に相続人が判明した場合にはその者に財産が承継され、相続財産管理人の役割は終了します。
一方、公告期間を経過しても相続人が現れない場合には、債権者や受遺者に対しても請求を促す公告が行われ、請求期間内に届出があった債権については相続財産管理人が財産の範囲内で弁済を進めます。
相続財産管理人は、相続財産を自らの名義に移すのではなく、被相続人の名義を維持したまま管理人としての権限を行使します。
例えば、不動産がある場合には必要に応じて売却して換価し、その代金から債権者への支払いを行うなど、財産を金銭化して債務弁済や清算を進めます。
そして債権者や受遺者への支払いがすべて完了し、なお余剰財産が残った場合には、最終的に国庫に帰属させる手続きを行うのも相続財産管理人の役割です。
この制度は、相続人が存在しない場合でも被相続人の権利義務を適正に処理し、社会的に財産を行き場なく放置させないための重要な機能を果たしています。
相続財産管理人の選任は家庭裁判所への申立てによって開始され、申立権は債権者、受遺者、市町村長、さらには利害関係人にまで認められていますが、選任に際しては申立人が一定の予納金を裁判所に納める必要があるため、実務上は債権者や自治体が主導することが多いとされています。
このように、相続財産管理人は相続人不在という特別な状況において、被相続人の財産を調査し、公告を通じて権利者を探索し、債権弁済を行ったうえで残余財産を国に帰属させるまでの一連の手続きを担う重要な役割を果たす存在であります。