【用語解説】 特定遺贈

遺産相続における「特定遺贈」とは、遺言によって被相続人が自らの財産のうち特定の物や権利を特定の受遺者に与える旨を明示した遺贈のことを指します。
遺贈とは、遺言によって財産を無償で譲り渡す行為をいい、その中でも特定遺贈は、遺言者が「どの財産を」「誰に与えるか」を明確に指定している点に特徴があります。
たとえば、「長男に自宅の土地と建物を遺贈する」「友人に私の所蔵する絵画を与える」などといった記載がある場合、それは特定遺贈に該当します。
これに対し、遺言者が「全財産の3分の1をAに与える」といったように、具体的な財産を指定せずに包括的に与えるものは「包括遺贈」と呼ばれ、両者は法的性質や効果の面で異なります。
特定遺贈が行われた場合、その効力は遺言者の死亡時に発生します。
つまり、受遺者は遺言者の死亡と同時に、その指定された財産を取得する権利を持つことになります。
ただし、遺贈された財産が遺言者の死後も現存していることが前提です。
もし遺言者が生前にその財産を売却してしまった場合や、事故や災害などで滅失していた場合には、特定遺贈の対象は消滅し、受遺者はその代わりを請求することはできません。
これは特定遺贈があくまで「特定の財産」に対するものであるためであり、包括遺贈のように財産全体に対して一定の割合を与えるものとは異なり、代替的な補填は認められないのが原則です。
また、特定遺贈において重要なのは、受遺者の立場が相続人とは異なるという点です。
相続人は法律上当然に被相続人の権利義務を承継しますが、受遺者は遺言によって指定された財産のみを受け取るにすぎません。
したがって、受遺者は相続人のように債務を引き継ぐ義務を負わず、遺贈された財産の範囲内でのみ権利を取得します。
ただし、遺産に債務が多く含まれる場合や、遺贈によって他の相続人の遺留分を侵害する恐れがある場合には、遺贈の内容が制限されることがあります。
相続人の遺留分を侵害する特定遺贈が行われた場合、遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求権」を行使して、受遺者に対してその一部を金銭で返還するよう求めることができます。
さらに、特定遺贈の履行には「遺言執行者」の存在が重要です。
遺言執行者が指定されている場合、執行者は遺言内容を実現する責任を負い、対象となる財産を受遺者に引き渡します。
遺言執行者がいない場合には、相続人が共同で遺贈の手続きを進める必要があります。
受遺者は、遺贈の対象財産の引き渡しを相続人に請求できますが、遺言の内容や遺産分割の状況によっては、遺贈の実現までに時間を要することもあります。
特定遺贈は遺言者の意思を明確に反映できる制度であり、特定の人物に特定の財産を確実に引き渡すことを目的としています。
しかしその一方で、財産の現存性や遺留分との関係、税務上の取り扱いなど、複雑な法的要素を含むため、遺言書を作成する段階で弁護士などの専門家の助言を受けることが望ましいといえます。