【用語解説】 代償分割

遺産相続における「代償分割(だいしょうぶんかつ)」とは、遺産分割の方法の一つであり、相続人のうちの一人が特定の財産を現物で取得する代わりに、他の相続人に対して自らの資金などから金銭(またはそれに相当する価値のあるもの)を支払うことで、各相続人の相続分の公平を図る分割方法を指します。
相続財産の中には、土地や建物、事業用資産などのように分けることが難しいものが多く存在します。
たとえば、被相続人が所有していた自宅不動産を複数の相続人で分割すると、現実的な利用価値が失われたり、不動産の売却や共有管理において争いが生じることがあります。
こうした場合に、一人がその財産を取得し、他の相続人にはその相当額を金銭で補うという方法が代償分割です。
遺産の分け方には、主に現物分割、換価分割、代償分割の三つの手法があり、現物分割が原則とされるものの、財産の性質上現物分割が不適切な場合に代償分割が選択されます。
たとえば、被相続人が経営していた会社の株式や事業用の土地など、分割してしまうと経営に支障が出るような財産の場合、特定の相続人が事業を継承し、他の相続人に対して金銭を支払うことでバランスを取ることが望ましいとされます。
このような形で、代償分割は実務上、家業承継や自宅不動産の承継といった場面で多く用いられています。
代償分割において重要なのは、「代償金の評価」と「支払能力の確実性」です。
代償金は、取得する財産の評価額と他の相続人の法定相続分との差額を基準に算定されますが、不動産などの評価額は時価や固定資産税評価額、あるいは鑑定評価などによって変動するため、相続人間で合意が得られない場合も少なくありません。
加えて、代償金を支払う側の相続人が十分な資金を有していなければ、合意しても実現が難しくなります。
したがって、代償分割を選択する場合には、代償金の支払い方法や期限、分割払いの可否などを慎重に定める必要があります。
また、代償分割には税務上の取り扱いにも注意が必要です。
相続税の計算においては、代償金を支払う相続人は自己の取得財産として評価され、代償金を受け取る相続人も相続によって財産を取得したものと扱われます。
しかし、代償金の支払い額が過大である場合や、相続人間の公平を欠くような形で行われた場合には、その一部が贈与とみなされるリスクもあります。
したがって、実際の相続実務では、税理士や弁護士など専門家の助言を得ながら、客観的な評価と適正な代償金額の設定を行うことが求められます。
代償分割は、一見すると単純な金銭調整のように見えますが、実際には相続人間の信頼関係や財産の評価、支払い能力といった多くの要素が関わる繊細な手続です。
たとえば、自宅を長年介護していた長男が取得し、他の兄弟に代償金を支払うケースでは、介護の貢献度(寄与分)や被相続人の意向をどう反映させるかという問題も生じます。
このように、代償分割は単なる財産の分け方にとどまらず、家族の事情や被相続人の思いを踏まえた柔軟な解決手段として機能しています。